本年2月のトルコ・シリア大地震に学ぶこと

2023年7月20日

▲海洋開発機構の資料をもとに作図

トルコは5つのプレートに囲まれた地震大国

2023年2月6日の午前10時17分(日本時間)、トルコとシリアの国境付近を震源とするM7.8の大きな地震が起こりました。更に、午後7時24分にM7.5の余震が発生し、両国で死者約5万6000人、トルコ国内で倒壊や大きな損傷を受けた建物が20万棟を超えました。家を失うなどの大きな影響を受けた人は、トルコの人口約16%、約1400万人に及ぶと言われています。
日本は4つのプレート(北米プレート、ユーラシアプレート、太平洋プレート、フィリピン海プレート)に囲まれているため、プレートの移動による地震や約2000あると言われる断層による地震など、常に地震の危険にさらされていますが、トルコもアナトリアプレート、エーゲ海プレート、アラビアプレート、アフリカプレート、ユーラシアプレートの5つのプレートと北アナトリア断層、東アナトリア断層に囲まれているため、日本と同様に常に巨大地震が懸念されている国です。
今回連続して起きた地震は、上図の×で示した東アナトリア断層で起きています。この地域はアナトリアプレート、アラビアナプレート、アフリカプレートの移動による影響が大きい場所でたびたび大きな地震が発生しています。国土地理院では、地球観測衛星「だいち2号」の観測データを解析し「震源地周辺では、最大2mを超える地盤変動があった」としています。
また、産業技術総合研究所の分析では「活断層により、地表が水平方向で最大約9.1mずれた」としていますから、その地震規模の大きさがわかります。

死者、負傷者は建物倒壊、破損によるもの

今回のトルコ・シリア大地震と、2011年の東日本大震災の被害を比較すると次のようになります。
●地震規模:トルコ・シリア大地震M7.8
東日本大震災M9
●被害状況:トルコ・シリア大地震 建物倒壊による死者
東日本大震災 多くは津波による死者
●死者数:トルコ・シリア大地震 約5万6000人
東日本大震災 約1万8500人(行方不明者含む)

▲人工衛星から見たトルコの惨状
Open Data Program by MAXAR Technologies,
情報デザイン:東京大学 渡邊英徳研究室

このように、地震規模は東日本大震災の方がはるかに大きいのですが、死者数は圧倒的にトルコ・シリア大地震の方が多く、しかもその原因は建物倒壊によるものです。その原因のひとつは、内陸地震で震源の深さが17.9㎞と浅かったこと。もうひとつは耐震基準を満たしていない建物が多かったこと。中には耐震基準を偽った不法建築もあったことです。
トルコでは、1999年にM7.4のコジャエリ地震が発生し、死者が約1万7000人も発生しました。この被害を受け、翌2000年に耐震基準が改正されましたが、今回倒壊した建物の多くが古い耐震基準によるもので、鉄筋を使用していない建物や耐震基準に満たない細い鉄筋の建物が「パンケーキクラッシュ」と呼ばれる、上の階が下の階に次々に落ちる崩落現象で破壊されました。しかし、新耐震基準を満たし高度な免震構造で建築した病院などでは、ほとんどが無事でした。
このトルコ・シリア大地震に、同じ地震大国である日本が学ぶべきは、建物の耐震基準を満たした建物を正しく建築すること。古い建物の場合には、適切な耐震補強を行うことの重要性です。もちろん、室内の倒れやすい家具などはしっかりと固定し、家屋内での負傷事故を防ぐ日常的な備えをしておくことも大切です。
大地震がいつ起きるかの予測は難しいですが、いつかは必ず起きます。だから「いつ起きても被害を最小化できる備え」が重要。「当たり前の対策を粛々として行うこと」これが「備えあれば憂いなし」という結果に結びつきます。