南海トラフ地震の懸念は?

2024年5月30日

2024年の地震発生回数は2498回
昨年同時期(1月1日~5月20日)の3.4倍

2024年になって、5月20日までに発生した地震(震度1以上)は、元日の「令和6年能登半島地震」(マグニチュード7.6、最大震度7)の本震、余震を含めて2498回で、昨年比で3.4倍も発生しています。昨年の同期間では743回です。

今年になって発生した震度5強以上の地震を下表に示しますが、4月17日に豊後水道で発生したマグニチュード6.6の地震以外は、全て令和6年能登半島地震の余震です。震度5弱の地震は、3月15日の福島県沖地震(マグニチュード5.8)、3月21日の茨城県南部地震(マグニチュード5.3)など13回発生しています。
この中で特に気になるのは4月17日の豊後水道地震で、1919年の気象庁の統計開始後に四国で初めて震度6弱の地震が発生しました。それだけでなく、今回の震源が南海トラフ想定震源域内であることです。

政府では、南海トラフ沿いで異常な現状を確認した場合、マグニチュード6.8を超えた場合に大地震発生の可能性の調査を始め「臨時情報」を発表することとしています。今回の地震はマグニチュード6.6で、調査を開始しませんでしたが、政府の地震調査員会委員長の平田直・東大名誉教授は「今すぐ南海トラフ大地震発生を警戒する段階にはないが、今回の地震の規模などは速報値で、今後見直される可能性もある。今後の情報に注視していてほしい」としています。

豊後水道は南海トラフ地震の想定域の西端
花蓮地震の震源は琉球海溝の西端・・・

また、4月4日に台湾近海を震源とするマグニチュード7.7の花蓮地震、2週間後の4月17日に四国と九州の間の豊後水道で発生したマグニチュード6.6の豊後水道地震は、どちらも「南海トラフ地震の前触れではないか?」との懸念が検討されものでした。幸いにして、どちらの地震も「南海トラフ地震の前兆とは言えない」という気象庁の見解でしたが、1400㎞近く離れた2つの地震が「南海トラフ地震」と関連付けられる理由は、上図の日本列島の海底地図で2つの地震の震源を確認すると、共通項が見えてきます。南海トラフと琉球海溝は九州東南沖から始まる「九州・パラオ海嶺」を挟んでつながっています。両方ともフィリピン海プレートが、ユーラシアプレートに沈み込む場所になっているのです。
この南海トラフ沿いのプレート境界では、海側のフィリピン海プレートが、陸側のユーラシアプレートの下に1年あたり数㎝の速度で沈み込んでいます。その際、プレートの境界が強く固着して陸側のプレートが地下に引きずり込まれ、ひずみが蓄積されます。そして、陸側のプレートが引きずり込みに耐えられなくなり、限界に達して跳ね上がり「南海トラフ地震」が発生するのです。だから、専門家は台湾の花蓮地震でも、南海トラフ地震との関連性を検討しているわけです。

過去の南海トラフ地震は時間差で連続発生する「半割れ」が多い

南海トラフ巨大地震の最新の発生確率は、10年以内に30%程度、30年以内に70~80%、そして50年以内では『90%程度もしくはそれ以上』とされています。気象庁は、南海トラフ周辺の地震活動や地殻変動等の状況を調べ、毎月評価討論会や判定会を開催していますが『現在のところ、南海トラフ沿いの大規模地震の発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まったと考えられる特段の変化は観測されていない』と評価しました。
内閣府が2019年5月に公表した南海トラフ巨大地震の被害想定は、死者数を約23万1000人とし、全壊または火事により焼失する建物は約209万4000棟になるとしています。
南海トラフ地震は発生する場所によって、下記のような名称で呼ばれます。
南海地震:四国南方~紀伊半島を震源とする南海トラフ地震
東南海地震:紀伊半島沖~遠州灘を震源とする南海トラフ地震
東海地震:駿河湾から静岡県の内陸部を震源とする南海トラフ地震
上図の西側にあたるのが「南海地震」東側「東南海地震」「東海地震」になります。専門家が警戒しているのは、片側で巨大地震が発生した後、時間をおいて反対側でも巨大地震が発生するケースで、これを「半割れ」と呼んでいます。この領域で過去に起きた地震では、上図のように1854年の安政東海地震・安政南海地震が約32時間の間隔を置いて発生した事例、1944年の昭和東南海地震・1946年の昭和南海地震が約2年間の間隔を置いて発生した事例など時間差で地震が連続したケースが多くあります。
半割れでは、復旧活動が終了していないうちに次の地震が襲うことになり、被害がさらに大きくなります。また、最初の地震で持ちこたえた家屋でも、表面に見えないダメージを受けていることもあるので、2度目の地震で崩壊することもあります。
南海トラフ地震に限らず、日本列島では巨大地震がいつ起きてもおかしくありません。「巨大地震は必ずくる」と考え、国も自治体も、個人も、それぞれのレベルでできる備えをしておくべきでしょう。