命を守る「最低限の基準」

2024年3月29日

現行の耐震基準は命を守る「最低限の基準」でしかない
繰り返す余震や経年劣化で耐震性能も危うくなる

熊本地震では「耐震等級3」の木造住宅被害はほとんどなかった

2024年元旦に発生した「令和6年能登半島地震」では、60棟の全壊、948棟の半壊を含む1万棟を超える木造住宅が被害を受けました。木造住宅の建築時期、住宅構造と被害の関係は今後の詳細な調査結果を待つ必要があるでしょう。
参考になるのが、上に示した2016年に発生した熊本地震の木造住宅被害調査結果です。日本建築学会が実施した熊本県益城町中心部の2340棟の住宅被害調査のうち、1955棟の木造住宅被害を建築時期別・被害程度別に示したものです。明らかに、旧耐震基準で建てられた家より、1981年6月以降の新耐震基準の住宅の被害が少なく、さらに2000年6月に改正された木造住宅の新耐震基準で造られた住宅被害は大幅に少なくなっています。特筆すべきは、2000年基準の木造住宅のうち「耐震等級3」の住宅では調査住宅16棟のうちの2棟に軽微な被害があっただけで、全壊・半壊や大規模被害の住宅が全くなかったことです。

「耐震基準」と「耐震等級」

住宅の耐震性能の指標には「耐震基準」と「耐震等級」があります。
耐震基準は「一定の強さの地震に耐えられるように、建築基準法が定めた最低限クリアすべき基準」です。建築基準法で守ろうとしているのは「住宅」ではなく、家の中の「命や健康、持っている財産」なのです。つまり、地震に際して「家は壊れるかもしれないが、命は守れる」最低限の基準ということです。
この耐震基準は、1950年の建築基準法で制定され、1978年の宮城県沖地震の大きな被害を受けて1981年に大改正されました。この1950~1980年5月末までの耐震基準を「旧耐震基準」と呼び、1980年6月以降を「新耐震基準」と呼んでいます。さらに、1995年の阪神・淡路大震災の後、2000年には主に木造住宅の耐震性能を向上させた現行の耐震基準(2000年基準)が設けられています。
耐震等級は、2000年施行された「住宅品質確保促進法(品確法)」に基づいてできた「日本住宅性能表示規準」です。耐震等級1~耐震等級3の3段階表示で、数字が大きくなるほど建物の耐震性能が高くなります。品確法では、地震に際しての「損傷防止」と「倒壊等防止」の基準が設けられています。
損傷防止は、数十年に一度発生する地震(震度5程度)では軽度なひび程度にとどまり、大規模な修復が必要ない程度の耐震性です。倒壊等防止は、数百年に一度程度の地震(震度6強から震度7程度)に対し、即時に建物が倒壊せず、最低限人命は守れる耐震性です。

耐震等級1は現行の建築基準法(2000年基準)を満たす水準で、耐震等級2は現行基準の1.25倍の耐震性、耐震等級3は1.5倍の耐震性と定められています。
家を新築するとき、法律上は現行の建築基準法を満たす耐震等級1のものでよいのですが、より安全な住宅を求める場合には、耐震等級2、耐震等級3を選択すればよいでしょう。とうきゅうを上げることで建築コストはかかりますが、地震保険は耐震等級1=10%割引、耐震等級2=30%割引、耐震等級3=50%割引となります。
気をつけなければならないのは、耐震等級1は「1回の地震での倒壊は防げるが、繰り返しの地震に耐える」ことを想定していないということです。余震の繰り返しや群発地震のたびに耐震性能は劣化している可能性があります。免震構造の住宅はすべて耐震等級3になるので、優れた耐震性の家となります。