巨大地震に際し、治療の拠点となる病院は、高い耐震性を発揮できる免震構造が望ましい。
免震構造を備えた病院はまだ8%弱
大震災発生に備え、特に高い耐震性を保っておかなければならない施設は次の3つです。
1.子どもたちの安全を守り、避難施設としても使用される学校
2.機能維持が不可欠な官庁施設
3.ケガ人の収容・治療にあたる病院
学校は、文部科学省により「耐震性を建築基準法の1.25倍以上」にすることが「通知」され、官庁施設は国土交通省の「基準」により、「地方機関が入居する施設は1.25倍以上、中央官庁や地方ブロック機関が入居する施設は1.5倍以上、その他は建築基準法相当の耐震評価値」を必要としています。しかし病院では、国立大学病院、公立病院は「1.25倍以上、1.5倍以上」を要求されていますが、多くの民間病院に対しての基準は、建築基準法による規定のみです。
厚生労働省が、10月10日に発表した全国8085病院の「令和4年の病院の耐震改修状況調査」(上図)での耐震化状況は、耐震基準を満たす病院は79.5%ですが、揺れによる被害を極めて小さくできる免震構造の病院はまだ7.9%しかありません。
この内、災害時に機能維持が要求される災害拠点病院、救命救急センター(778病院)では、耐震基準を満たす病院は95.4%、免震構造の病院は21.5%と一般病院よりは高いものの、巨大地震に対する備えとしてはまだまだ充分とはいえません。
今年の2月6日のトルコ・シリア地震による大きな被害のあったトルコでは、約10年前から一定規模の新築病院の免震構造化が義務付けられていました。倒壊や機能停止になった病院は免震構造になっていないもので、免震構造の病院の被害は軽微なものでした。
耐震基準を満たしていない病院は一刻も早く耐震化を進め、耐震改修は満たしていても巨大地震に対しては機能維持ができなくなる危険性のある病院は、地震の揺れから建物を切り離すことのできる免震構造へ改修することが望ましいものです。それらの病院に対しては、免震導入を促す国の支援も必要でしょう。
病院の機能維持には免震構造が望まれる
下図は、NHK11月10日『時論公論』の「地震後の病院機能維持に必要なことは」で示された「耐震性と病院の機能維持」の図を基に作表したものですが、現行の建築基準法を満たした建物であっても、巨大地震の場合には建物や内部の損傷が発生し病院の機能が失われる危険性があるのです。
表内の「余裕の小さな一般の構造」とは建築基準法ギリギリの基準で、「余裕の大きな一般の構造」とは建築基準法の基準を大きく上回る補強がなされているものです。
地震の揺れから建物を守る建築技術は、次の3種類に大別できます。
1.耐震:柱の間に筋かいなどを入れて補強し、地震の揺れに「耐える」方法。建物の倒壊を防いだり、倒壊を遅らせることで住人が脱出できる時間を確保します。
2.制振:主に高層ビルなどの大型建築で使われる技術で、建物内に重りや「ダンパー」と呼ばれる特殊な装置を設置し、地震の揺れを吸収させて軽減します。
3.免震:建物と基礎の間に免震装置を入れることで、地震の揺れから建物を切り離す技術です。ゴムで滑らせたり、金属ボールで転がすことにより建物の揺れを軽減させます。
病院や学校、官庁施設などの耐震度を高めるために、最も有効なのが免震構造だといえます。当社が開発した「エアー断震システム」は木造建築物向きの免震技術で、空気で建物を浮上させることにより、建物を地震の揺れから切り離すことができます。小規模なクリニックなどを地震の被害から守る有効な方法です。