南海トラフ地震の本当の恐ろしさ             首都圏機能の麻痺が第2次災害を引き起こす

2025年12月1日

★南海トラフ地震は100年周期で繰り返されてきた巨大災害

南海トラフ地震は、フィリピン海プレートが日本列島の下に沈み込むことで発生する典型的な「プレート境界型巨大地震」です。歴史的に見ても、1707年宝永地震、1854年安政東海・安政南海地震、そして1944年東南海地震・1946年南海地震と、100年~150年周期で必ず発生しています。
次の発生確率は今後30年で70~80%とされ、もはや「いつ来てもおかしくない」段階になっており、その被害想定は死者23万人、負傷者230万人、建物全壊・焼失230万棟、全国で2,000万人を超える避難者という未曽有の規模になることが懸念されています。

★日本列島が持つ「10の脆弱性」―巨大災害を招く構造的条件

今後予想される南海トラフ地震の恐ろしさは「日本列島が持つ自然災害に対する脆弱性」と、1923年に発生した「関東大震災時と比較した社会構造の変化」によって増幅されると指摘しているのは、国土学総合研究所所長、元国土交通省道路局・技監 大石和久氏です。大石氏は「日本列島が抱える自然災害への脆弱性」を別表のように10項目挙げていますが、論旨をまとめると次のようになります。
日本は世界でもまれに見る自然災害の多発国です。その背景には地形・地質・気象・都市構造に起因する「根本的な弱点」が存在します。南北に細長い国土、島しょ部の多さ、山脈による東西分断、崩れやすい地質、狭い平野と軟弱地盤、そして地震・豪雨・台風・豪雪といった多様な脅威――。これらの要素が重なり合うことで、日本はひとたび大規模災害が起きると、広域で被害が連鎖的に拡大しやすい構造になっているのです。

★首都圏が抱える致命的な15の問題ーー社会構造の変化が被害を大きくする

大石氏はさらに、南海トラフ地震や首都直下地震が発生した場合、東京は直接的な揺れだけでなく、社会機能の麻痺・インフラの停止・人口集中による混乱など、複合的な危機に直面する危険性を指摘しています。過度な人口・機能集中、脆弱なエネルギー供給、避難空間の不足、木造密集地域の火災リスク、復旧のための建設労働力の減少、SNS時代のデマ拡散、地域コミュニティの弱体化、公共部門の機能不全、食料・物流の全面依存、膨大な帰宅困難者やエレベーター閉じ込めの問題、治安維持体制の欠如、電柱倒壊による都市封鎖などが懸念されると言います。以下、大石氏の指摘を個別に解説します。

①人口の過度な首都圏集中率
――関東大震災時には13.7%だった首都圏人口比率が30%に上昇。フランスの約20%、イギリスの約13%、アメリカの約2%と比較しても遥かに高い。(アメリカのニューヨーク都市圏は約5.7%、ロサンゼルス都市圏は約3.8%)
②東京湾岸の火力発電所が津波で壊滅する危険性
――湾岸地域の総発電量2200万kwが一挙に消滅すれば、首都機能は数ヵ月単位で麻痺。
③圧倒的に不足する避難空間
――日比谷公園16ha、上野公園54haに対し、ニューヨークのセントラルパークは341ha、プラム・ベイ・パークは1122ha。首都直下・南海トラフ災害時には、大量の避難民を収容する場所が不足。
④木造密集地域の火災
――環状7号線周辺、江東区などの木造住宅密集地域は、関東大震災が再現される危険性。
⑤建設労働者の不足
――瓦礫処理・建物補修は誰が行うのか。労働力は急減し「首都再建不能」というシナリオも現実味を帯びる。
⑥デマと情報洪水
――スマホ時代は1億人が「発信者」。デマによる大パニックをどう抑えるかは未解決。
⑦コミュニティ崩壊時代
――マンションの郵便受けに名前がない時代に、近所同士の助け合い=互助は期待しにくい。「公」の施策でカバーできるのか?
⑧公共部門の弱体化
――緊急時に動くべき行政人員の多くが被災して動けず、災害時に機能しない可能性。
⑨食料自給率0%という致命傷
――東京は完全に他地域依存。南海トラフで交通遮断されれば、数日で食料危機に陥る。
⑩440万台
の車が道路を占
――帰宅困難者500万人と合わせて、都市交通は麻痺し救助が進まない。
⑪湾岸タワーマンションの孤立
――液状化で道路が寸断され、孤立・飢餓の可能性が指摘されている。
⑫500万人の帰宅困難者
――東日本大震災(352万人)を上回る規模が予測され、支援体制は未整備。
⑬エレベーター4万基に2万人閉じ込め
――誰が、どのような順序で救助するのかは未定。
⑭治安維持システムの欠落
――関東大震災時には戒厳令で暴徒鎮圧が行われたが、現代にはその仕組みがない。
⑮電柱倒壊による都市封鎖
――無電柱化はわずか8%。大量の電柱倒壊で道路が埋まり、救助は絶望的。

 

このように、南海トラフ地震は「西日本の問題」ではありません。
十分な対処がなされていなければ、首都圏壊滅が日本列島を麻痺させるトリガーとなるのが、その本当の怖さなのです。

国土学総合研究所所長、元国土交通省道路局長・技監
大石氏の YouTube 講演「南海トラフ本当の恐ろしさ」が当該の講演です。